抗生剤の処方について
「風邪に抗生剤が効かない」ということは、ご存知の方も多いと思います。
あらためて説明をさせて頂くと、感染症の原因は細菌(溶連菌、肺炎球菌など)、ウイルス(インフルエンザウイルス、ノロウイルスなど)、およびその中間のもの(マイコプラズマなど)に分けられます。抗生剤が有効なのは細菌とマイコプラズマなどであって、ウイルスには効果がありません。かぜ症状の原因の約90%はウイルス感染といわれており、インフルエンザなど一部のウイルスを除けば特効薬はありませんので、基本的には自分の免疫力で治るのを待つことになります。
私が医師になった19年前は、発熱している子供には抗生剤を処方するのが普通でした。その後、抗生剤をたくさん使用することの弊害がクローズアップされ、かぜ症状の子供に最初から抗生剤を処方する小児科医は少なくなりました。
かぜ症状で抗生剤が必要なケースは、溶連菌による扁桃炎、急性中耳炎、急性鼻副鼻腔炎(青ばなが長引く症状)の一部、細菌性肺炎(マイコプラズマを含む)が疑われる場合などです。
一方で抗生剤を使用する弊害をあげると、
①腸内細菌の乱れ(善玉菌もたくさん死んでしまう)
②耐性菌(抗生剤が効きにくい菌)の割合が増え
③一部の飲み薬の抗生剤を長期に使うと、体内のカルニチンが減少し、けいれんや意識障害の原因になる
④後々の診断が難しくなる
①は理解されやすいと思います。②でいうと塗り薬も問題で、ゲンタシンやリンデロンVGといった抗生剤を含んだ軟膏が多く使われた結果、「とびひ」の原因で多い黄色ブドウ球菌に効きにくくなっています。
今回強調したいのは④の問題です。昨年まで姫路赤十字病院に勤務していたときの経験ですが、入院になった患者さんがそれまでに飲んでいた抗生剤のために細菌培養検査の結果がうまく出ず、最終的な病名が確定できないケースが時々ありました。どんな菌がどこにいて症状を引き起こしたのかを知ることは治療の上でも大切ですし、良くなった後の対処が必要な場合もあるので、細菌培養検査は非常に重要です。
そのため当院で抗生剤を処方する場合は原因菌を推定した上で薬を選択しできるだけ短期間にとどめること、処方する前に細菌培養検査を提出しておくこと、もし後に改善せず入院になった場合はその検査結果を病院へ伝えること、を心がけています。
最近オラペネム、オゼックス(トスフロキサシン)など強力かつ広い範囲の細菌に効く抗生剤が小児にも使えるようになり、内服で治療可能なケースが増えたのは確かですが、少なくとも第一選択として安易に使う薬ではありません。これらに限らず以前に処方された残りの抗生剤をとりあえず飲ませておく、ということはしないようにお願いします。