かぜ薬について その2
太子町に小児科を開業して改めて気づいたことの一つとして、こどもの病気を診て下さる小児科専門でない先生方が地域に沢山おられることがあります。もともと小児科専門医の少ない地域ですから(2016年7月現在、太子町に私を含めて2人、たつの市に1人)、そういった先生方のお力なしでは対応できないのが現実です。
当院の患者さんも、他院を受診されて良くならないからと来られるケースが多いので、出されている薬を見せて頂くのですが、かぜ薬、解熱薬など十分な処方内容のことが多いです。この場合の小児科専門医の役割は何でしょうか。
かぜのほとんどはウイルス感染症なので合併症(髄膜炎、脳炎・脳症など)さえなければ自然に治ります。薬で良くならないのは、まだ良くなる時期じゃないからです。ここで仮に抗生剤を追加処方したらどうなるか。その翌日に自然に良くなれば、あそこで出してもらった薬がよく効いたと感謝されるでしょう。良くならなくても薬を出さずに悪化した場合に比べれば、追加していた方が評判は落ちません。でも、小児科専門医はそれをしてはいけないのです。
真の小児科専門医の仕事は、すでに出されている薬にどのくらい意味があるのか(効果や副作用とともに、こどもに内服させることの大変さも)、追加の検査を行うかどうか(多くの検査はこどもに負担を強います)、本当に治療の追加や変更が必要でないかを見極めることです。その結果、すべての薬をやめて良くなるのを待ちましょう、と言うことがあります。それを納得して頂くためには十分な説明が必要ですし、信頼関係がないと難しい場合もあります。帰宅する足で別の医院を受診し、薬を処方されていたのでは意味がありません。(その失敗も何度か経験しています。)
私の妹の一人が小さい頃、薬を飲まされる度に嘔吐していたことを思い出します。かぜ症状で受診するとピンクや黄色の薬をもらってくるのですが、母が何とか飲ませようと牛乳に混ぜて口にさせ、直前に食べたものまで毎回戻していました。その頃の医師は発熱に抗生剤を処方することがおそらく常識でしたし、母も何とか我が子の病気を治そうと必死でした。誰も責められませんが、母も妹も不幸でした。今はかぜに薬を使うことが常識ではありませんし、むしろ使わない小児科専門医も増えています。当院へ来られるこども達やご家族にはそういった不幸を避けてほしいと思っています。